Clockwork Angels the novel summary (1)




第4章

 つい勢いでスティームライナーに乗ってしまったものの、「大変なことをしてしまった」と焦るオーエン。自分を引っ張りあげた相手に「なんてことをしてくれたんですか?」と責めるものの、「自分で乗ると決めたんじゃないのか?」と言われ、それはそうだと思う。そしてもう乗ってしまったのだから、このままクラウンシティへ行き、見物をしてから帰ればいいと思い、不安は脇において、期待に胸を弾ませる。
 自分が乗ったのは、木材を乗せる貨車で、自分を引っ張りあげた相手は、きちんとスーツを着、ブリーフケースのサラリーマン風。なんとなくミスマッチを感じながらも、オーエンは自己紹介をする。相手は細面の顔立ちに太い眉毛、眼光鋭く、口ひげと細いあごひげを生やしている。そして左の手には、ひどいやけどのあとがあった。オーエンが見ているのに気づいた男は、その手の上から皮の手袋をはめる。
「あなたのお名前は?」と聞くも「名前は自分を縛るものだ。私はわたしだ。見たとおりだ」と言い、名乗らない。「クラウンシティへは行ったことはあるんですか?」という問いには、「必要以上に何度もね」と答え、「どんな用事で」と聞くと、「仕事さ」と答える。「Clockwork Angels」について教えてくださいと頼むと、「ウォッチメイカーの抑圧のシンボルだ」と答え、オーエンを仰天させる。「まあ、いくらかの美は認めるがね」という相手だが、ウォッチメイカーの統治に対して批判的な意見を展開するので、さらに驚くオーエン。今までは自分と同じ意見の持ち主ばかりだったので、議論ということが出来ず、不快と当惑を感じながらも、反論できずにいる。

 相手はオーエンの袋から勝手にりんごを一つとって食べ、芯を窓から投げ捨てる。そしてクラウンシティが近くなってきたところで、「若いの、お金は持っているかい?」とたずね、オーエンがりんご一つのほかは何も持っていないことを知ると、「クラウンシティはお金で動いているから」と、自分が持っていたすべてのコインをオーエンに渡す。「ありがとうございます。あなたはとても気前の良い方ですね」というオーエンに、「私が気前がいいって? たぶん、私はおまえさんに貸しを作りたいんじゃないかと思うんだ」と言い、「駅につく前に飛び降りろ。レギュレイター(警察)に見つかるとまずいから」と言い残し、スティームライナーから茂みの中に飛び降りて、去って行く。オーエンも慌てて、少し勇気を振り絞り、貨車から飛び降りる。




第5章

 クラウンシティへ到着したオーエンは、自分が住んでいた田舎、バレル・アーバーとは大きく違う、きらびやかな都会に幻惑される。見るものすべてがものめずらしく、くらくらするほどの陶酔を感じながら、Clockwork Angelsが置かれている、クロノススクエアに向かおうとする。クロノススクエアはクラウンシティの中心部にあり、それを取り巻く環状道路と、そこからの放射状道路が通っている。
 母の本を何度も見ていたので、オーエンはそこへいく道がわかり、目指そうとするが、クラウンシティは想像以上に広く、その中心までは遠い。工場街や住宅街、商店街を、周りをきょろきょろ見渡し、進んでいく。ウォッチメイカーが建てた大学や、将来の錬金術僧を養成する錬金術アカデミーの建物を通り過ぎ、しばらく行くと、塀を洗っている二人の男を見る。そして二人が消している何かを見ようとして、そこの丸で囲んだAの文字を見る。そこには青い制服に身を包んだレギュレイターたちもいた。
 さらに進んでいくと、帽子屋がある婦人に帽子を売っているところを見るが、「この青い帽子がお似合いですよ」と言う帽子屋が差し出す帽子は緋色。不思議に思って見ると、その帽子屋は盲目だった。客も不審を抱いたようで、「本当に?」と聞くと「ウォッチメイカー様が私をこの職業につけた。お客にぴったりの帽子を選べると。これは絶対あなたにお似合いですよ」と言う。婦人はそう言われ、その明らかに似合っていない緋色の帽子を買って行った。
 その帽子屋はオーエンの方を向き、「あなたにも帽子が必要ですね」と言って、灰色ツイードの帽子を差し出す。オーエンはそれが気に入ったので買い、もらったコインの一つを渡す。
 さらに進んでいくと、蒸気で動くパーカッション人形の実演をやっている。それは周りに並べられたさまざまなドラムやシンバルをリズミックに叩いていく(注:CA Liveのドラムソロ、The Percusserと言うのはこの人形の名前)が、突然故障する。操り手は慌てず人形を止め、彼の帽子を差し出す。オーエンはそこに祝儀として、もらったコインの一つを入れる。

 夕方になって、ようやくクロノススクエアの入り口に着いたオーエンだったが、そこの番をしている赤い制服のレギュレイターに「チケットを持っていなければ、ここには入れない」と言われる。「チケットはどうやったら手に入るのですか?」と言うオーエンに、「ただチケットを発行すればいいのだ」としか言わない。中を見ることも許可されず、オーエンはがっかりして広場を去る。




第六章

広場を追い返されたオーエンは仕方なく、近くの宿屋に泊まる。それでかなりもらったコインを使ってしまったが、料理はまずく、部屋も広くない。そこで一夜を過ごし、翌日早く、再び出発する。途中道行く人たちに、「どうやったらクロックワークエンジェルスのショウが見られますか?」と聞いてみるが、「チケットを発行してもらえばいい」と言われ、「どうやって?」と聞くと、不審そうに見られるだけだった。自分はここの市民ではないことを言う勇気もなく、オーエンはそれ以上は聞けなかった。
 やがて彼は、フルーツペストリーの自動販売機を発見する。お腹がすいていたのでコインを入れ、つい習慣でアップルペストリーを買おうとするが、どうせなら冒険をしてみようと、今まで一度も食べたことのないラズベリーペストリーを買う。それは非常においしく、彼は新鮮な驚きと満足を感じる。
 ペストリーを食べ終えて歩いていると、人だかりを発見する。そこには赤い制服のレギュレイターたちが十人くらいいて、壁を掃除する準備をしている人たちもいる。覗き込むと、壁には『誰がウォッチメイカーを作ったんだ?』『本当は今何時だか知っているか?』と描かれ、昨日見た丸の中にA、と言うシンボルも見る。
「何の意味ですか?」とオーエンは近くにいた人に聞くが、「アナキストめ! 奴は何かと言うと面倒を起こしたがる!」と相手は答えるだけだ。そして別の人が、「でも橋を爆破するよりは、壁に落書きする方が被害がなくてすみますよ。塗りなおせばいいだけですから」と言っていた。

 なお歩いていくと、広い公園にカーニバルの一団が来ているのを発見する。「マグナッソン・大カーニバル」と称されたその場所には、観覧車やジェットコースターなどの遊具や各種のゲームブースが設置され、面白そうだとオーエンは入ってみることにする。入り口にいたのはストロベリーブロンドにラベンダー色のドレスを着た女性だが、彼女は長いあごひげを生やしていて、そのひげをあごの下で、ラベンダーのリボンで結んでいた。驚きながら、オーエンは彼女に入場料を払う。そしてついでに「クロックワークエンジェルのショウのチケットはどうしたら手に入りますか?」と聞くと、「このチケットは違うわよ。わたしらのだけでは、十分でないの?」と返され、オーエンは相手の気分を害しては、と、それ以上は聞けず、中へ入る。
 遊具やゲームブースのほかに、ピエロのショウもあり、重いバーベルを持ち上げる力自慢や火吹き男など、多くのアトラクションがあった。その中を歩いていると、「若いの。あんたの運命を知りたくないかね」と、どこからともなく声をかけられる。それは赤いカーテンで仕切られた奥の占いブースからで、入ってみると機械仕掛けの老婆の人形が、タロット占いをやっていた。コインを入れ、ねじを巻くと、その人形が動いてカードをシャッフルし、展開する。(注:この出札が、まんま『Peacable Kingdom』でした。でも解釈はなし)最後にその人形がにやっと笑い、オーエンは突然彼女が――少なくとも彼女の一部は生きているのだと悟り、驚いてブースを出る。

 カーニバルの中央部では、カイゼル髭を生やし、黒のフロックコートとトップハットと言ういでたちの団長、セザール・マグナッソンが「これからショウの花形、フランチェスカの空中ブランコが始まるよ」と呼び込んでいた。オーエンは声につられて、そこへいく。フランチェスカは白のレオタードとふわふわしたスカートに身を包み、長い黒髪をなびかせ、口に一輪のバラをくわえて、颯爽と高いポールを登っていく。彼女の美しさにオーエンは見とれ、その華麗な空中ブランコに、すっかり魅せられて、最前列へと行く。クライマックスで、彼女の背につけられていたバッグ(慎重に髪に隠され、見えないようになっていた)が開き、アルミニウム製の白い天使の羽が現われる。そしてひらりと地上に舞い降り、オーエンの目の前に降り立つと、加えていたバラの花を彼に差し出す。どぎまぎしながら受け取るオーエンと、笑うフランチェスカ。
 そこへ青い制服のレギュレイターたちの一団が現れ、マグニッソン団長に「書類に不備があった。いったんカーニバルを解散し、24時間以内に書き直してくれ」と言う。「ウォッチメイカー様のご意思の通りにいたします」と団長は答え、カーニバルは解散した。




インタルード:ウォッチメイカー

 アルビオンの支配者、ウォッチメイカー。時計職人と自らを呼ぶ老人は、このアルビオンを二百年以上にわたって支配して生きた。彼は調和と均整、正確さを好み、アルビオンの住民すべてを、自らの理想とする世界を、緻密に、そして無駄なく組み込み、完璧なデザインで動かそうとしていて、またそれに成功してもいた。彼は一日のスケジュールを寸分狂わさず、毎日同じように暮らしていて、また人々にもそうしてほしいと思っている。

 ウォッチメイカーを支える組織として、ハード面を支えるエンジニアや物理学者たち、そしてソフト面とも言える錬金術層たち――錬金術は魔術とも言われていた――そして街の秩序をつかさどる、黒、赤、青のレギュレイター。別名Watchと言うが、これは見張りと時計をかけている言葉だろう。
 ウォッチメイカーはミツバチと蜂蜜を愛する。ミツバチは整合性と秩序、そしてその無駄のない、整然とした六角形の巣を社会の理想とし、自らのシンボルにミツバチを使っている。彼はまた、マーティンと言うダルメシアン種の犬を飼っているが、その犬自体は四年前に死に、新しい犬を飼う気になれなかったので、剥製のオートマトン(自動人形)にして手元に置き、今も決まった時間に散歩に連れて行く。
 ウォッチメイカーはアルビオンの首都、クラウンシティの中心にある時計塔に付属する建物に住み、日々時計の針のように規則正しく世界が動いていくのを喜びとしている。その時計塔にはCold Fire(注:この世界の電気の代わりのようなもの)の大元があり、ここから街のすべてに力が供給されている。その冷たい火は十人の主要な錬金術僧によって管理されている。それは硫黄やアンチモニー、水銀、ナトリウムなどの元素を融合し、蒸留し、結晶化し、呪文と儀式も加えて作り出す、この世界の動力だった。
 二百年以上前、アルビオンは従来の火によって動かされていたが、本当の火は扱いづらく、時々コントロールに失敗して事故が起き、人々の秩序も乱れていた。その頃、のちのウォッチメイカーは錬金術僧を集めを研究を行い、ついに賢者の石を見つけ、黄金を生み出すことに成功した。その黄金で、アルビオンのすべてのものを――土地、工場、施設にいたるまでを買占め、最後には過剰供給によって、金は価値をなくしたが、その頃にはウォッチメイカーは実質上アルビオンの支配者となっていた。そして彼とその錬金術僧グループは『冷たい火』を作り出し、従来の火に取って代わる、そして危険ではなく、扱いやすい新しい動力として使うことで街を改革し、人々を自分の秩序の中に入れていった。そしてやがて、「スタビリティ」(安定)として、現在のアルビオンの社会を築いて行ったのだ。

 彼は毎日、決まった時間に部下たちから報告を受ける。その日の出来事や、物資の状況などを。黒の警備長から受ける街の様子についての報告は、ほとんど毎日変わりなかった。
「この間レッカーたちに襲われた船はたしかに損失ですが、新しい船がすぐに来ます。必要物資はふんだんにありますよ』と言う報告に、『もちろんだ』と答えるウォッチメイカー。
 彼のお抱え錬金術層たちは、時計や装置を動かす宝石を生み出すことは出来なかったが、他のものを作り出した。スティームライナーの運転や、飛行艇を飛ばす飛空石、そしてウォッチメイカーを若返らせる薬などを。彼は時計塔のシンボルである、四体の『Clockwork Angels』のパフォーマンス時、その時計塔の中にいて、見守っているのが常だ。
 一般の人々は、自分の役割、自分の周りのことにしか関心がない。そして、その役割に満足して、日々を過ごしている。ウォッチメイカーはすべての人々が自分の計算の中で、何も疑いを持たず、それぞれの役割を全うすることを、そしてずっと自分の管轄内のどこでも、そうあり続けることを望んでいた。だが、ウォッチメイカーの『運命計算機』は、ある一人の若者を指し示していた。何の変哲もない、大きな能力も持っていない、ただの若者であるが、彼は自分の小さな世界だけには満足していない。この世界の大勢の人々の中でたった一人の若者の存在は、砂の一粒、小さな小石に過ぎないが、砂粒も目に入れば痛いし、小石も靴の中に入れば厄介だ。それゆえ、ウォッチメイカーはこの若者、オーエン・ハーディを監視していた。そして同時に、彼に目をつけているのは自分だけではないことも知っていた。
 ウォッチメイカーは灰色のカツラと付け髭、ガウンと帽子、眼帯をつけ、行商人の荷車を引いて、世界を見に行くのだった。




第七章

 カーニバルが解散したあと、オーエンは川をたどり、河口へ着く。そこは波止場になっていて、大勢の水夫や積み下ろし人たちが、川を下ってきた船からいろいろな荷物――主に食料を、降ろしていくのを見ていた。その中に彼は見たことのない、大きな果物を見つけ、近くの水夫に「それはなんですか?」と聞くと、「パイナップルだよ」と言う答え。その人は親切にもその果物を切って、オーエンに味見させてくれる。それは初めて食べる味で、『蜂蜜と日光と黄金を混ぜたよう』に感じる。彼は運搬の仕事を手伝い、その恩恵として、少し傷んで市場に出せない果物を食べ、空腹を満たしていた。そして働いているうちに、海を渡ってきた大きな船を見る。それはアトランティス――ポセイドンから来た船で、錬金術や装置を動かすのに必要な稀石をいっぱいに積んでくる。何隻かは途中で、レッカーに襲われて行方不明になるものの、それでも余りある数の船が、遠くからの荷物を積んで入ってきていた。その作業も手伝い、「この荷物はアトランティスのポセイドンから来たんだ。もしかしたら伝説の七都市からも――』と思い、感激するオーエン。本来ここに来た目的である、天使のパフォーマンスはまだ見られないものの、既にかつて夢に見た、今までにない世界に触れる経験をいくつもしてきたオーエンはすっかり興奮し、ここにラヴィニアがいてくれて――もしくは他の誰かでもいい――この体験を共有してくれたら、と思う。

 さらに歩いていくうちに、天体模型が展示されているビルを見つけ、中に入るオーエン。それは、機械仕掛けで動く太陽や月、惑星、他の星々の模型で(注:プラネタリウムのClockwork版と言う感じか)、それを動かしている人にも話を聞く。「これはどうやって動いているのですか?」と言うオーエンに「宇宙がどのように動いているかって。ウォッチメイカーさまだけがご存知さ」と答える。オーエンは最後のコインを払って、天体模型を動かしてもらう。
「実際の星は、ふらふらしたり逆行したり、ちゃんとしたきれいな円を描いて、等速度で動いてはいない。でもこの機械仕掛けの宇宙は、すべてがきっちりとした円を描き、完璧な調和と速度で動いている。ウォッチメイカー様なら、きっと実際の宇宙もこのように動かしてくださるさ」そう言う操作者に、「それは疑っていません」とオーエンは頷く。




第八章

夜になった。昼間積み下ろしを手伝ったので身体は疲れ、天体模型に魅了されて精神は興奮していたが、そのために金はなくなり、宿屋に泊まるわけにはいかない。オーエンは夜の街をあてどなく歩き出す。十時になり、人々が寝静まった街は静まり返っていて、冷たい火の街灯にぼんやりと照らされ、薄暗い。
 夜の通りを歩いていると、壁のところに屈みこんでいる男がいる。街灯の下ではないのであたりは薄暗く、何をしているかは見えないが、何かを噴射する音と、塗料のにおいがする。「何をしているんですか?」と声をかけるオーエン。街灯の薄暗い光のいたずらで、自分が大きく見えたのだろう。驚いた相手は手に持っているものを取り落とし、駆け去っていく。
 オーエンは男が落としたものを拾い上げた。それはスイッチを切り替えるといろいろな色が出るスプレーだった。暗闇に目が慣れてくると、彼は壁に書かれた文字に気づく。『スタビリティは時間を止められる』『ウォッチメイカーを作り出したのは誰だ?』そして丸に囲まれたAの文字。今朝同じ落書きを見かけたことを思い出し、このシンボルはアナキストを意味することをその時知ったオーエンは、それではさっきまでここにいたのはそいつだったのかと驚く。
 その時、遠くから青の見張り兵(レギュレイター)が巡回する乗り物の音を聞く。「ここにさっきまでアナキストがいたんですよ!』とオーエンは彼らに叫ぼうとするが、しかし自分がその落書きの前に立ち、スプレーを持っているというのは非常に誤解を生む。犯人と思われるかもしれない、と気づき、スプレーをその場において逃げ出す。

 やがて彼は、昼間カーニバルが設営していた広い公園にやってきた。そこには誰もいないが、木の下には柔らかい草が生えている。ここで夜明かししようと、オーエンは草の上に寝る。クラウンシティにやってきて、たくさんのものを見ることが出来た。後は天使のパフォーマンスが見られたら、バレル・アーバーに帰ろうと。しかし天使のパフォーマンスを見るためのチケットは、この街の住民に、それぞれの職業や役割に応じて、ウォッチメイカーとその組織が曜日や時間を割り当て、発行することを、今日の間にオーエンは知っていた。でも自分はここには属していないから、チケットはもらえない。そもそもウォッチメイカーの支配するこの世界に、自分の属する場所以外にいるというのは、十分イレギュラーなのではないかと少し不安に思うが、「でも目的が達せられたら、自分は元の場所に帰り、自分の役割をそれからはまっすぐに果たしていきたい。だから大丈夫だろう』と、思う。
 しかしオーエンがうとうととまどろみかけた時、街をパトロールする青の見張り兵がやってきた。「市民よ。おまえの住所は?」と聞かれ、「僕はここには属していません」と答えるオーエン。「ここに属していない奴は、ここにいることは許されない。ここは公共の場所だ」と言われる。オーエンは「でも今日は泊まるところがないんです」と言うが、「自分のいるべき場所ではないところにいることは許されない。この街から出て行け」と言う。「これは予定外だ。ウォッチメイカー様へのレポートに書かなければならない。面倒なことだ。一ヶ月以上、何も事件などなかったのに」と言う青警備兵に、「でもアナキストが鉄道を爆破したり落書きしたりは、あったんじゃないですか?」とオーエンは言う。しかし相手は「アナキストの件は、我々の管轄外だ。そっちは別の部署がやっている」と言う。そして青警備兵はオーエンを自分達の乗り物に乗せ、街の外れまで行くと、彼をそこに放逐して去っていく。

 いきなり町外れに取り残されたオーエンは、途方にくれた。そこは昨日の朝、スティームライナーから降りたところとはまったく違う場所で、ここからどうやって帰ったらいいかもわからない。クラウンシティからは四方八方に向けてスティームライナーの路線が通っているので、どれがバレル・アーバー方面に行くものなのかは、街の中心にある駅まで戻らなければならないのだ。周りにはほとんど家もなく、荒野が広がるばかりで、スタビリティの前にはきっとこんな状態だったのだろう。この中で自分はどうやって生きられるだろう、と不安を覚えるオーエン。
 ともかく、どこかに人家がないだろうか。自分をとめてくれる親切な人はいないだろうか、と手がかりを求め、近くの丘に上って見渡してみると、カーニバルの明かりが見えた。それは昼間見たマグナッソン・カーニバルの人々だった。彼らは街でショウをしている時以外、その郊外に野営して暮らしているのだ。オーエンが近づいてみると、カーニバルの人々が、この夜遅い時間帯にもかかわらず、ショウの練習をしていた。その中には三人のピエロも、昼間オーエンを魅了した空中ブランコのりのフランチェスカもいた。彼らはウォッチメイカーのスケジュールには縛られない。独自の基準で練習し、行動しているのだ。
 そしてオーエンは突然後ろから来た若者に剣を突きつけられた。「おまえは誰だ?」 振り返ると、それは昼間火を喰ったり、剣を飲んだりしていた男だった。名前を聞かれ、名乗ると、相手は自分はトミオと言い、剣の使い手でもあると言う。そしてオーエン相手にからかうように剣舞をしていると、そこへ団長マグナッソンがやってくる。そしてフランチェスカも。オーエンは彼女に、まだバラを持っていると言うと、「あら、それは素敵」と笑うフランチェスカ。
「どうしてここに来たのか」と団長に問われ、オーエンはこれまでのいきさつを手短に説明する。(注:この前に「なぜなら僕はここにいるから、というRoll the Bonesの引用が来る。三人のピエロもその前に、『Roll the bones』と言いながらサイコロを転がしているし、小説にはいたるところ、Rushの歌詞からの引用が出てくる。ちなみにこの三人のピエロ、Peke、Deke、Lekeは、明らかに三人がモデルですね)
「君はどこにもいく当てがないのかね?」そう言うマグナッソンに、「ええ」と首を振るオーエン。
そしてフランチェスカが言う。「なら、ここにいればいいわ」





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